東京の駅前には、居酒屋の隣にオフィスがあり、その上の階に人が住んでいます。日本で暮らしているとごく当たり前の光景ですが、世界的に見るとこれはかなりめずらしい都市の姿です。アメリカの多くの住宅地には、徒歩圏内にコンビニひとつ建てられない場所が広がっています。
この違いを生んでいるのが「ゾーニング」と呼ばれる都市計画の仕組みです。ライティング・タスク2では都市や住環境のトピックが繰り返し出題されますが、ゾーニングを知っている受験者は多くありません。この記事では、日本とアメリカの都市の違いを手がかりに、エッセイでそのまま使える背景知識と表現を整理します。
目次
ゾーニングとは何か
日本にもある「分離型」のゾーニング
ニュータウンに見る日本型の設計思想
アメリカ型と日本型、構造の違い
エッセイでの使い方
まとめ
01 ゾーニングとは何か
ゾーニング(zoning)とは、都市の土地を「ここは住宅のためのエリア」「ここは商業のためのエリア」というように区分けし、それぞれの用途を法律で指定する仕組みです。日本語では「用途地域制」と呼ばれます。
日本にも都市計画法にもとづく「用途地域」という制度があり、現在は13種類の地域に分かれています。ただ、日本の制度は欧米に比べて用途の混在をゆるやかに許容する傾向があり、住宅のすぐ隣にコンビニや飲食店があるのはめずらしくありません。駅前のビルに店舗・オフィス・住居が同居しているのも、その表れです。
一方アメリカでは、1926年の連邦最高裁判決(オハイオ州ユークリッド村の条例をめぐる裁判)をきっかけに、用途を厳格に分離するゾーニングが全国に広がりました。この方式は判決にちなんで「ユークリッド型ゾーニング」と呼ばれ、今もアメリカの多くの都市で土地利用の基本になっています。日本人にゾーニングという概念があまり浸透していないのは、こうした厳格な分離を経験せずに暮らしている人が多いからだと言えます。
ワンポイントコラム
ユークリッド判決(1926年)はどんな裁判だったのか
正式には「ユークリッド村対アンブラー不動産会社事件(Village of Euclid v. Ambler Realty Co.)」といいます。舞台はオハイオ州クリーブランド郊外のユークリッド村。都市化と工業化が急速に進んだ1920年代のアメリカでは、住宅地の隣に突然工場が建つことがめずらしくありませんでした。そこで村は1922年、土地を住宅・集合住宅・商業・工業などの地区に区分し、建物の高さや敷地面積まで定める包括的なゾーニング条例を制定します。
これに反発したのが、村内に68エーカー(東京ドーム約6個分)の土地を持っていたアンブラー社でした。鉄道沿いのこの土地は、工場用地としてなら1エーカーあたり約1万ドルの価値があるのに、条例で工業利用が制限されたせいで住宅用地としての約2,500ドルにしかならない。行政が土地の使い道を一方的に制限するのは財産権の侵害だ、というのが会社側の主張で、連邦地方裁判所はこれを認めました。
ところが連邦最高裁は1926年11月、6対3でこの判断を覆し、村を支持します。理由は「地方自治体は、公共の健康・安全・福祉を守るために土地利用を規制できる」というもの。判決文には「豚は家畜小屋の庭にいれば正しい存在だが、応接間に入れば迷惑物になる」という有名なたとえが登場します。工場そのものが悪いのではなく、場所を間違えると害になる、という発想です。
誤解されやすいのですが、ゾーニングの仕組み自体はこの判決の発明ではありません。全米初の包括的ゾーニング条例は1916年のニューヨーク市で、1926年の時点ではすでに数百の自治体が同様の条例を持っていました。ただ、財産権の侵害として違憲と判断されるリスクが残っていたため、最高裁のお墨付きは決定的な意味を持ちました。この判決を境に用途分離型のゾーニングは全国標準として定着し、村の名前から「ユークリッド型」と呼ばれるようになったわけです。もっとも20世紀後半には、この方式が車依存や住宅不足を招いたという批判も強まりました。この記事の後半で見る「分離のトレードオフ」は、まさにその論点につながっています。
02 日本にもある「分離型」のゾーニング
「日本は混在を許容する」と言っても、分離を目的としたゾーニングが存在しないわけではありません。用途地域の中には、特定の用途をかなり強く排除する地域があります。
第一種低層住居専用地域
住宅系の中で最も規制が厳しい地域のひとつです。建てられるのは戸建て住宅や小中学校、診療所などが中心で、コンビニのような小さな店舗であっても原則として建てられません(住宅と一体になった小規模な店舗など、限られた例外はあります)。ホテルや工場はもちろん、病院も建てられないという点は意外に思われるかもしれません。「静かな住宅環境を守る」ために、商業機能をかなり徹底して排除した地域です。
建てられるもの: 戸建て住宅、小中学校、診療所、交番など
建てられないもの: 店舗・飲食店(原則)、大型スーパー、ホテル、病院、工場など
工業専用地域
逆に、住宅の建築を禁止する地域もあります。工場や港湾施設、物流施設を一か所に集め、騒音・振動・大型車の交通といった住宅地との摩擦を避けることが目的です。ここでは住宅だけでなく、学校・病院・ホテルなども建てられません。
つまり日本の制度は、全体としては混在を許容しながら、両端には欧米型に近い「専用地域」も用意している、という構造になっています。
03 ニュータウンに見る日本型の設計思想
戦後に計画されたニュータウンでは、住宅地と商業地区を分けて配置する考え方がはっきり採用されました。代表例が、日本初の大規模ニュータウンである千里ニュータウン(大阪府、1962年まちびらき)と、多摩ニュータウン(東京都)です。
これらの街は「近隣住区論」という都市計画の理論にもとづいて設計されています。小学校区ほどの広さを一つの「住区」として、その中に住宅・学校・公園を計画的に配置する考え方で、千里ニュータウンでは12の住区がつくられました。
興味深いのは商業施設の扱いです。商業を住宅地から完全に遠ざけるのではなく、各住区の徒歩圏内に「近隣センター」と呼ばれる小さな商業拠点を置き、日常の買い物や郵便局・集会所などの用事がそこで足りるようにしました。より大きな買い物は、ニュータウン中心部の商業センターが受け持ちます。用途を分離しつつも、日常生活は徒歩で完結するように設計されているわけです。この「近さを残した分離」は、日本のゾーニングらしい特徴と言えます。
04 アメリカ型と日本型、構造の違い
ここまでの内容を、アメリカ型の厳格な分離と日本型の階層構造として並べてみます。
アメリカ型(厳格な分離)
住宅専用地区single-family residential zone
↓ 数キロ・車で移動
商業地区commercial zone
↓
工業地区industrial zone
日本型(階層構造)
住宅地
↓ 徒歩圏内
小さな商店・学校・診療所近隣センターなど
↓ 電車やバスで移動
商業中心地
アメリカ型では、住宅専用地区から商業地区まで数キロ離れていることも多く、日常の買い物にも車が必要になります。これが車依存(car dependency)や都市の無秩序な拡大(urban sprawl)を招いたという批判は、都市計画の分野で長く議論されてきました。
一方の日本型は、徒歩圏に商店や学校があるため歩いて暮らしやすい反面、住宅のすぐ近くに人の集まる施設があることで、騒音や混雑と隣り合わせになります。どちらの方式にも、はっきりしたトレードオフがあるわけです。
厳格なゾーニング(strict zoning)
柔軟なゾーニング(flexible zoning)
有利な点
静かな住環境が守られ、騒音や安全面のトラブルが少ない
利便性が高く、徒歩中心の生活がしやすい
不利な点
車依存になりやすく、日常の移動距離が長い
騒音や混雑の問題が起きやすい
05 エッセイでの使い方
ライティング・タスク2では、都市への人口集中、郊外の拡大、車の増加、住環境の悪化といった都市系のトピックが出てくることがあります。こうした課題で具体的なアイデアが浮かばないとき、ゾーニングの知識は議論の軸として役に立ちます。
使い方はシンプルで、「厳格なゾーニング」と「柔軟なゾーニング」のトレードオフを対比の形で書きます。
Strict zoning regulations can create inefficient cities by separating residential areas from commercial facilities, forcing residents to rely on cars.厳格なゾーニング規制は、住宅地と商業施設を切り離すことで非効率な都市を生み、住民を車に頼らせることがあります
However, more flexible zoning, as seen in many Japanese cities, can encourage walkable communities.一方、日本の多くの都市に見られる柔軟なゾーニングは、歩いて暮らせる街づくりを後押しします
逆の立場を取るなら、混在型の弱点に触れることもできます。
One drawback of mixed land use is that residents are more likely to suffer from noise and congestion.用途を混在させることの欠点は、住民が騒音や混雑の影響を受けやすくなることです
あわせて、この分野でよく使う表現をまとめておきます。
zoning :ゾーニング、用途地域制
land use :土地利用
residential area / commercial district :住宅地/商業地区
mixed-use development :住宅と商業などを混在させる開発
walkable community :歩いて暮らせる地域
car dependency :車への依存
urban sprawl :都市の無秩序な拡大
こうした表現は、知っているだけでは書けるようになりません。実際に使ってみて初めて自分の語彙になります。
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運用語彙強化
walkable community や urban sprawl など、この記事で出てきた都市系の語彙を、実際に使える形になるまで反復練習できます。
06 まとめ
最後に、この記事のポイントを整理します。
ゾーニングとは、土地の用途をエリアごとに指定する都市計画の仕組み。日本の「用途地域」は欧米に比べて混在を許容する傾向がある
ただし日本にも、第一種低層住居専用地域や工業専用地域のような分離型のゾーニングが存在する
千里や多摩などのニュータウンは、住宅地の徒歩圏に近隣センターを置く、日本らしい階層構造で設計されている
厳格なゾーニングは静かだが車依存を招きやすく、柔軟なゾーニングは便利だが騒音・混雑を招きやすい。この対比はそのままエッセイの軸になる
都市のトピックは身近なわりに、いざ書こうとするとアイデアが出にくい分野です。自分の住んでいる街がどう区分けされているのかを一度調べてみると、エッセイに書ける具体例が意外なほど増えるはずです。
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