in terms of、as for、on the contrary。どれも学校で習う、よく知られた表現です。単語の意味も知っている、文法的にも間違っていない。それなのに、答案で使うとなぜか不自然に映る。そんな「使う場面のずれ」による誤用が、ライティングの答案には数多く潜んでいます。
この種の誤用は文法チェックでは引っかからないため、自分ではなかなか気づけません。この記事では、日本人学習者が特に間違えやすい6つのつなぎ表現を取り上げ、それぞれの本来の機能と使用条件、自然な言い換えを例文とともに整理します。
目次
意味も文法も正しいのに誤用になる「第三のタイプ」
in terms of は「〜については」の万能枕詞ではない
as for は話題を「切り替える」ときにしか使えない
on the contrary は「逆に」ではなく「それどころか」
on the other hand は「また」ではなく「その一方で」
at first は「まず最初に」ではなく「最初のうちは」
at last は「最後に」ではなく「ついに」
前提がないまま使いがちな in my case と in this situation
訳語ではなく「使用条件」で覚え直す
まとめ
01 意味も文法も正しいのに誤用になる「第三のタイプ」
英語の誤用と聞いてまず思い浮かぶのは、単語の意味そのものを取り違えているケースか、時制や語順などの文法ミスでしょう。しかし添削をしていると、そのどちらでもない誤用に頻繁に出会います。単語の意味は知っている、文法的にも正しい、それなのに読むと不自然。表現が「使える文脈」からずれているタイプの誤用です。
この記事で取り上げる in terms of、as for、on the contrary、on the other hand、at first、at last は、いずれもこのタイプの代表例です。共通しているのは、「〜については」「逆に」「一方で」「まず」「最後に」といった日本語の訳語を経由して覚えているという点です。訳語は意味の近さを教えてくれますが、その表現がどんな文脈でしか使えないかという条件までは教えてくれません。
つなぎ表現は、次に来る内容を読み手に予告する道路標識のような役割を持っています。標識と実際の道筋が食い違えば、読み手は流れを見失います。採点基準(Band Descriptors)の Coherence and Cohesion(一貫性とつながり)では、つなぎ表現を適切に使えているかどうかが評価されるため、文法的に正しくても、予告として機能していないつなぎ表現はスコアに影響します。それでは、1つずつ見ていきましょう。
02 in terms of は「〜については」の万能枕詞ではない
「環境については」「教育の面では」という感覚で、段落や文の頭に置く万能の前置きとして使われがちな表現です。しかし in terms of には、はっきりした使用条件があります。
思い込みがちな使い方
「〜については」と話題を導入する万能の前置き
本来の機能
複数ありうる評価の観点の中から、どの観点で測るかを1つ指定する
誤
In terms of the environment, we should switch to renewable energy.「環境については」のつもり。観点の比較が存在せず、ただの話題導入になっています。
正
To protect the environment, we should switch to renewable energy.環境を守るためには、再生可能エネルギーに転換すべきです。
in terms of が本来力を発揮するのは、コスト、効率、安全性といった複数の評価軸が想定される場面で、「どの物差しで測った話なのか」を絞り込むときです。
In terms of cost, solar power is now more competitive than nuclear power.
費用の点では、太陽光発電は今や原子力発電よりも競争力があります。
The two policies differ greatly in terms of their long-term impact.
この2つの政策は、長期的な影響という点で大きく異なります。
使用条件チェック
「〜の点では」と訳しても自然か。ほかの観点との比較や対照が想定されているか。単に「〜については」と言いたいだけなら、regarding を使うか、その名詞を文の主語や目的語に組み込んで書き直したほうが自然になります。
03 as for は話題を「切り替える」ときにしか使えない
in terms of と並んで、「〜については」の直訳として多用されるのが as for です。特に As for me, ... はエッセイでも会話でも定番の書き出しになっていますが、実は使える場面が限られています。
思い込みがちな使い方
「〜については」と、どの話題にも使える導入
本来の機能
すでに述べた事柄から、関連する別の項目へ対比的に話題を切り替える標識
誤
As for education, it plays an important role in society.エッセイの書き出しで「教育については」のつもり。まだ何の話題も出ていないため、切り替えの標識だけが宙に浮いています。
正
Education plays an important role in society.教育は社会で重要な役割を果たしています。
as for は「Aの話はした。では B はどうかというと」という流れの中でのみ機能します。つまり、先行する話題があって初めて使える表現です。
Most employees adapted to the new system within a week. As for the managers, they needed additional training.
大半の従業員は1週間で新しいシステムに慣れました。管理職はどうかというと、追加の研修が必要でした。
The first proposal was rejected immediately. As for the second, it is still under discussion.
最初の提案は即座に却下されました。2つ目はどうかというと、まだ議論が続いています。
定番の As for me も同じです。他の人々の意見が先に述べられていて、「では私はどうかというと」と対比する文脈なら自然ですが、いきなり自分の意見を導入する位置に置くと不自然です。単に意見を表明するなら In my opinion や Personally, が適切です。
使用条件チェック
先行する話題があり、そこから別の項目へ「では〜はどうか」と切り替えているか。文章の最初の話題に使っていないか。
04 on the contrary は「逆に」ではなく「それどころか」
「逆に」「一方で」という訳語で覚えているため、2つの事柄を単純に対比する場面で使ってしまう誤用が非常に多い表現です。しかし on the contrary は、実は対比の表現ではありません。
思い込みがちな使い方
「逆に、一方で」と2つの事柄を対比する
本来の機能
直前の内容を打ち消して、「それどころか事実は正反対だ」と主張を強める
誤
Living in a city is convenient. On the contrary, living in the countryside is relaxing.「都会は便利で、逆に田舎はのんびりしている」のつもり。前の文を否定していないため使えません。
正
Living in a city is convenient. In contrast, living in the countryside is relaxing.都会の生活は便利です。対照的に、田舎の生活はゆったりしています。
on the contrary が使えるのは、直前の内容(多くは否定文や、書き手が否定したい通説)を受けて、「いや、むしろ事実はその逆だ」と切り返す文脈だけです。
Technology does not isolate older people. On the contrary, it helps them stay connected with their families.
テクノロジーは高齢者を孤立させません。それどころか、家族とのつながりを保つ助けになります。
The reform was not a failure. On the contrary, it exceeded every target the government had set.
その改革は失敗ではありませんでした。それどころか、政府が設定したすべての目標を上回りました。
使用条件チェック
「それどころか」と訳して自然か。直前に否定文、または打ち消したい主張があるか。単なる対比なら in contrast や on the other hand を使います。
05 on the other hand は「また」ではなく「その一方で」
on the contrary とセットで整理したいのがこちらです。on the other hand は対比に使える表現ですが、今度は「また」「さらに」の感覚で、2つ目の論点をただ追加するために使ってしまう誤用が目立ちます。
思い込みがちな使い方
「また、それから」と2つ目の論点を付け加える
本来の機能
対立や緊張関係にある「もう一方の側面」を提示する
誤
Online courses are affordable. On the other hand, they allow students to study anywhere.「安いし、また、どこでも学べる」のつもり。どちらも利点で対立していないため、不自然です。
正
Online courses are affordable. In addition, they allow students to study anywhere.オンライン講座は手頃です。さらに、どこでも学習できます。
hand は文字どおり手のことで、片方の手にひとつ、もう片方の手に対立するものを載せて天秤にかけるイメージです。前後には、プラスとマイナス、賛成と反対のように引っ張り合う関係が必要です。
Online courses are affordable and flexible. On the other hand, they require a high level of self-discipline.
オンライン講座は手頃で柔軟です。その一方で、高い自己管理能力が求められます。
Tourism brings considerable income to the region. On the other hand, it puts pressure on the local environment.
観光は地域に大きな収入をもたらします。その一方で、地元の環境に負荷をかけます。
使用条件チェック
前後の内容が、プラスとマイナスのように対立しているか。同じ方向の内容を並べるなら in addition や what is more を使います。
06 at first は「まず最初に」ではなく「最初のうちは」
エッセイで1つ目の論点を切り出すとき、「まず最初に」のつもりで At first と書いてしまう誤用です。First や Firstly との取り違えで、添削でも特によく見かけます。
思い込みがちな使い方
「まず最初に」と列挙を始める
本来の機能
「最初のうちは〜だった(が、後で変わった)」と、変化の前半を描く
誤
At first, I would like to discuss the economic benefits.「まず最初に、経済的な利点を論じたい」のつもり。この後に「状況が変わった」という展開が来ない限り使えません。
正
First, I would like to discuss the economic benefits.まず、経済的な利点について論じます。
at first は必ず「後の変化」とセットで使います。but や however で状況が転換することを予告する表現なので、読み手は At first を見た瞬間に「このあと状況が変わるのだな」と身構えます。列挙の First に、この予告機能はありません。
At first, many employees struggled with remote work, but most of them adapted within a few months.
最初のうちは多くの従業員が在宅勤務に苦労しましたが、大半は数か月で慣れました。
At first glance, the two graphs look similar. However, they show opposite trends.
一見すると2つのグラフは似ていますが、実際には正反対の傾向を示しています。
使用条件チェック
後ろに but や however などの転換が控えているか。「最初のうちは」と訳して自然か。単なる順序の列挙なら First / Firstly / To begin with を使います。
07 at last は「最後に」ではなく「ついに」
at first と対になる誤用です。列挙を締めくくる「最後に」のつもりで at last を使うと、まったく違うメッセージが伝わってしまいます。
思い込みがちな使い方
「最後に」と列挙を締めくくる
本来の機能
「長く待った末に、ついに、ようやく」と待望の実現を表す
誤
At last, education should also be considered.「最後に、教育も考慮すべきだ」のつもり。「ついに教育が考慮されるときが来た」という感慨のように読めてしまいます。
正
Finally, education should also be considered.最後に、教育も考慮すべきです。
at last には、長い待機や苦労の末にようやく実現した、という感情的な含みがあります。この含みは、論点を順番に並べるという淡々とした作業とはまったくかみ合いません。
After years of debate, the government at last introduced the new law.
何年もの議論の末、政府はついに新しい法律を導入しました。
She had failed the exam three times, but at last she reached her target score.
彼女は3回試験に落ちましたが、ついに目標スコアに到達しました。
使用条件チェック
「ついに、ようやく」と訳して自然か。待ち望んだ結果が実現した場面か。列挙の締めは Finally / Lastly を使います。
08 前提がないまま使いがちな in my case と in this situation
ここまでの6つと同じ構造の誤用は、ほかにもあります。共通するのは、その表現が成り立つための前提が文中にないまま使ってしまう、というパターンです。
in my case
前提:他のケースが先に述べられていること
「私の場合は」の直訳で、自分の話を始める枕詞として使われがちです。しかし本来は「世間では〜と言われるが、私の場合はどうかというと」のように、一般的な傾向や他の人のケースとの対比があって初めて機能します。単に意見を述べるなら In my opinion や Personally, が適切です。
in this situation
前提:this が指す状況が直前に描かれていること
「このような状況では」の感覚で、状況を特定しないまま一般論に使ってしまうと、読み手は「どの状況のこと?」と迷子になります。this は直前の具体的な描写を指す語なので、指す相手がいなければ機能しません。一般的な条件として述べたいなら、if 節などで状況そのものを文中に書き込むのが安全です。
どちらも文法的には何の問題もありません。だからこそ、前提の欠落には自分では気づきにくいのです。
09 訳語ではなく「使用条件」で覚え直す
今回取り上げた表現に共通する対策は、訳語ではなく使用条件で覚え直すことです。on the contrary なら「直前に否定がある」、at first なら「後ろに変化が来る」、as for なら「先行する話題がある」。このように、表現とセットで「成立の条件」を記憶します。
見直しのときに使えるのが、条件を含んだ強い訳語に置き換えるテストです。「それどころか」「最初のうちは」「ついに」「では〜はどうかというと」。これらの訳語で読んでみて不自然なら、使う場面を間違えているサインです。
また、書き終えた答案を見直すときは、つなぎ表現だけを拾い読みする一巡を作ることをおすすめします。つなぎ表現は考えるより先に手が置いてしまうものなので、「予告どおりの内容が後ろに続いているか」だけに絞って確認すると、誤用に気づきやすくなります。
IELTS学習アプリ
誤用ファインダー
自分の英作文から表現の覚え間違いや使い間違いを見つけ出すツールです。つなぎ表現の使いどころのチェックにも活用できます。
10 まとめ
今回は、文法は正しいのに使う場面がずれて不自然になりやすいつなぎ表現を取り上げました。最後にポイントを確認しましょう。
in terms of は評価の観点を絞り込む表現。「〜については」の枕詞にしない
as for は先行する話題からの切り替え専用。文章の最初の話題には使えない
on the contrary は前の内容を打ち消す「それどころか」。単純な対比は in contrast
on the other hand は対立する側面の提示。同じ方向の追加は in addition
at first は「最初のうちは」。後ろに変化が続かないなら First / Firstly
at last は「ついに」。列挙の締めは Finally / Lastly
つなぎ表現は訳語ではなく、成立するための「使用条件」とセットで覚える
意味も文法も知っている表現ほど、使用条件を確認する機会がないまま手癖になってしまいます。しかし裏を返せば、今回の表現はどれも、条件さえ合えば論理展開を引き締めてくれる強力な道具です。on the contrary で通説を切り返し、on the other hand でトレードオフを示せれば、エッセイの説得力は一段上がります。「知っているのに使えない」を「知っているから使いこなせる」に変えていきましょう。
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