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スピーキング

制限用法のwhichは使われない!?学校で習う関係代名詞と実際の英語のギャップ

関係代名詞の制限用法では、which と that のどちらを使ってもよい。学校の英文法では、そう習った方が多いはずです。ところが実際の英語に触れていると、制限用法の which はあまり見かけないことに気づきます。それどころか、コンマなしの which に違和感を持つネイティブもいます。

文法的に間違いではないので神経質になる必要はありませんが、この「学校文法と実際の英語のギャップ」は知っておいて損はありません。この記事では、制限用法の which が実際にどう扱われているのかという背景から、この使い分けルールの意外な成り立ち、そしてIELTSスピーキングでの実践的な付き合い方までを解説します。

01学校ではこう習う:which と that は「どちらでもいい」

まず、学校で習うルールを整理しておきましょう。関係代名詞には、先行詞を限定する制限用法(コンマなし)と、先行詞に補足情報を加える非制限用法(コンマあり)があります。日本の文法教育では、次のように教わるのが一般的です。

用法 先行詞が物のとき 先行詞が人のとき
制限用法(コンマなし) which / that who / that The book which I bought yesterday was interesting.
非制限用法(コンマあり) which のみ(that は不可) who のみ(that は不可) This book, which I bought yesterday, was interesting.

このルール自体は正しく、制限用法で which を使った文は文法的に何の問題もありません。文法問題で which を選んでも誤りにはなりませんし、英語圏で書かれた文法書にも、制限用法では which と that の両方が使えると書かれています。

問題は、このルールから「どちらでもいいなら、どちらを使っても同じように自然」という印象を受けてしまうことです。実際の英語では、この2つの使われ方には大きな偏りがあります。

02実際の英語では:制限用法は that と「省略」が大半

実際の英語で制限用法の関係代名詞として選ばれるのは、多くの場合 that です。特に話し言葉ではその傾向が強く、さらに言えば、関係代名詞が目的格の場合は、関係代名詞そのものを省略した形が最も自然に響きます。

「昨日買った本、すごく面白かった」と言いたいとき

The book which I bought yesterday was really interesting.(文法的には正しいが、会話ではあまり聞かない)

The book that I bought yesterday was really interesting.(自然)

The book I bought yesterday was really interesting.(会話では最も自然)

書き言葉にも同じ傾向があります。特にアメリカ英語では「制限用法には that、非制限用法には which」という使い分けが広く推奨されてきました。新聞や出版物のスタイルガイドの多くがこの方針を採っており、Microsoft Word などの文法チェック機能が、コンマなしの which を that に直すよう提案してくることもあります。

一方、イギリス英語の書き言葉では制限用法の which も普通に見られ、「which は誤り」とまでは言えません。ただ、話し言葉に限れば、イギリス英語でも that や省略が優勢です。つまり「制限用法の which は、文法書の上では対等な選択肢だが、実際の英語、特に会話ではあまり出番がない」というのが、実情に近い理解です。

03なぜ制限用法の which に違和感を持つネイティブがいるのか

文法的に正しいのに、なぜ「気になる」ネイティブがいるのでしょうか。理由は大きく2つ考えられます。

ひとつは、アメリカの学校教育や出版の現場で「that は制限用法、which は非制限用法」という使い分けが長く教えられてきたことです。この使い分けに慣れた人にとって、which は「ここからコンマ付きの補足情報が始まりますよ」という合図のように響きます。そこにコンマなしの which が現れると、「そこは that では?」と引っかかるわけです。

もうひとつは、単純に耳にする頻度の問題です。会話で制限用法の which を聞く機会が少ないため、使われると少しかたい、書き言葉的な響きに聞こえることがあります。

ここで強調しておきたいのは、これは「正しいか間違いか」の問題ではなく、スタイルの好みの問題だということです。which を使ったからといって意味が変わるわけでも、誤解されるわけでもありません。気にするネイティブもいれば、まったく気にしないネイティブもいます。

04that/which ルールの意外な出自:イギリス人の「提案」だった

ではこの「制限用法は that、非制限用法は which」という使い分け(いわゆる that/which ルール)は、いつからあるのでしょうか。実は、英語に昔から備わっていた規則ではなく、あとから提案されて広まった、比較的新しい人工的なルールだそうです。

この使い分けを決定的に広めたのは、20世紀初頭にイギリスで出版された有名な語法書だと言われています。面白いのは、その提唱のしかたです。「書き手たちが that を制限用法に、which を非制限用法に使うと取り決めれば、文章はずっと分かりやすくなる」と勧める一方で、著者自身が「これが実際の書き手たちの慣行だと言うつもりはない」という趣旨のことも認めていたそうです。つまり、当時の英語の実態を記述したものではなく、「こう統一したら便利ですよ」という提案だったわけです。

さらに皮肉なことに、この提案は本国イギリスではほとんど定着しなかったようです。代わりに熱心に採用したのがアメリカの出版・編集業界で、出版界の標準である The Chicago Manual of Style や報道の AP Stylebook といった主要なスタイルガイドがこぞってこの方針を採り、編集された文章の世界で「規範」として定着していったそうです。イギリス生まれの提案が、海を渡ってアメリカで根付いたという、少しねじれた経緯をたどっているのですね。

05なぜ日本の学校文法は「両方OK」と教えるのか

ここで、「日本の英語教育はアメリカ英語の影響を受けているはずなのに、なぜ that/which ルールを教えず、両方OKと教えるのか」と不思議に思う方がいるかもしれません。これには2つの事情があります。

まず、アメリカでも「文法」のレベルでは両方OKだということです。that/which ルールはあくまで編集現場のスタイル規範であって、辞書や文法書の規則ではありません。アメリカを代表する辞書の Merriam-Webster も、制限用法の which を標準英語として認めていますし、アメリカで作られた英語学習者向けの文法教材も、制限用法では which と that の両方を文法的に正しいものとして扱っています。つまり「両方OK」は日本独自の教え方ではなく、英語圏の文法記述そのものです。

もうひとつは、日本の学校文法の骨格が、そもそもアメリカではなくイギリスの伝統文法だということです。日本の英文法教育の枠組みは明治から大正期に輸入されたもので、象徴的なのが五文型です。五文型はもともと20世紀初頭のイギリスの文法書に由来し、それを取り入れた日本の英語学者たちを通じて定着したとされています。戦後にアメリカ英語の影響が強まったのは主に発音や語彙の面で、文法の枠組み自体は戦前からの英国系伝統文法がほぼそのまま維持されてきました。

整理すると、日本の教科書はアメリカのルールを取りこぼしたわけではありません。世界中の文法書と同じ「記述として正しい内容」を教えているだけです。that/which ルールは文法書ではなくスタイルガイドの世界に属する規則なので、日本に限らず、各国の文法の教科書には基本的に登場しないのです。

06IELTSスピーキングでの実践的な付き合い方

では、IELTSスピーキングではどう付き合えばよいのでしょうか。結論はシンプルで、「神経質になる必要はないが、迷ったら that」です。

  • 迷ったら that を使う:制限用法の that はどの英語圏でも自然に響きます。物にも人にも使えるので、先行詞によって迷う場面が減るという実用的な利点もあります。
  • 目的格なら省略も自然:The movie I watched last night のように関係代名詞を省略する形は、会話では最も自然な選択肢です。
  • 人には who も使える:先行詞が人のときは who を選ぶと丁寧で自然です。とくに非制限用法(My sister, who lives in Osaka, ...)では who しか使えません。
  • which と言ってしまっても言い直さない:文法的に正しい形なので、そのまま話し続けて問題ありません。

採点の観点からも補足しておきます。IELTSスピーキングの採点基準(Band Descriptors)の文法(Grammatical Range and Accuracy)で見られるのは、文構造の幅と正確さです。制限用法の which は文法的に正しい形なので、使ったこと自体がスコアに影響することは考えにくいでしょう。むしろ、関係代名詞を使った複文を安定して組み立てられること自体が、構造の幅を示す材料になります。

スピーキング IELTSスピーキング採点基準 Band Descriptors

なお、非制限用法の「, which」はスピーキングでも大いに活用できます。My hometown, which is famous for its hot springs, is a great place to visit. のように情報を付け足す言い方は、複文構造を自然に見せる定番の形です。こちらは that に置き換えられないので、堂々と which を使いましょう。

関係代名詞を含む文を本番の形式で試したい方は、AI相手にスピーキングの模擬試験ができるツールで実際に口に出して練習してみるとよいでしょう。

IELTS学習アプリ MockTest-S(スピーキング模擬試験) AIを相手にIELTSスピーキングの模擬試験ができるツールです。関係代名詞を使った複文を、実際の試験形式の中で試せます。

07まとめ

制限用法の which をめぐる、学校文法と実際の英語のギャップ、そしてその背景にある歴史を見てきました。ポイントを整理します。

  • 制限用法の which は文法的に正しく、使っても誤りではない
  • ただし実際の英語、特に会話では that か省略が大半で、制限用法の which はあまり使われない
  • that/which ルールはあとから広まったスタイル上の提案で、提唱した本人も実態の記述ではないと認めていた
  • この提案は本国イギリスでは定着せず、アメリカの出版・編集業界で規範として定着した
  • 日本の学校文法が「両方OK」と教えるのは、世界中の文法書と同じ記述をしているだけで、間違いではない
  • 非制限用法(コンマあり)は which・who のみで、that は使えない
  • スピーキングで迷ったら that、人には who。which と言ってしまっても言い直す必要はない

文法書のルールと実際に使われる英語のあいだには、こうした温度差がときどきあります。「間違いではないけれど、あまり使われない」という知識として頭の片隅に置きつつ、スピーキングでは that と省略を軸に、落ち着いて文を組み立てていきましょう。

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Hibiki Takahashi

この記事を書いた人

Hibiki Takahashi

日本語で学ぶIELTS対策専門スクール『PlusOnePoint(プラスワンポイント)』創設者・代表。『英語ライティングの鬼100則』(明日香出版社)著者。1997年に大阪大学医学部を卒業後、麻酔科専門医として活躍。2012年渡豪時に自身が苦労をした経験から、日本人を対象にIELTS対策のサービスを複数展開。難しい文法・語彙を駆使するのではなく、シンプルな表現とアイデアで論理性・明瞭性のあるライティングを指導している。これまでの利用者は4,500名を超え、Twitterで実施した「12週間チャレンジ」では、わずか4週間で7.0、7週間で7.5など、参加者4名全員が短期間でライティングスコア7.0以上を達成(うち2名は7.5を達成)。「IELTSライティングの鬼」の異名を持つ。オーストラリア在住14年、IELTS 8.5(ライティング 8.0)、CEFR C2。

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