IELTSという名前が使われ始めたのは1989年ですが、その原型は1965年の試験までさかのぼります。試験の形は一度に決まったわけではなく、何度かの大きな改訂を経て今の4技能の形に落ち着きました。改訂の経緯を知ると、なぜリーディングが学術的な文章ばかりなのか、なぜスピーキングだけ試験官との対面なのか、といった疑問にも説明がつきます。この記事では、IELTSの前身から2026年のコンピューター版への一本化までを、年ごとの事実にそって整理します。
目次
年表でみるIELTSの歩み
前身は1965年のEPTB
1980年、ELTSの登場
1989年、IELTSの誕生
1995年・2001年・2005年の改訂
受験者数の拡大とデジタル化
日本でのIELTSの歩み
2026年、ペーパー版の終了
よくある質問
まとめ
01 年表でみるIELTSの歩み
細かい話に入る前に、全体の流れを先に押さえておきましょう。IELTSは1989年に始まった試験ですが、その系譜は1960年代の英国の入学者選抜用テストから続いています。
1965
EPTBの実施開始 ブリティッシュ・カウンシルとバーミンガム大学が開発。リスニングとリーディングのみを測定
1980
ELTSが始まる ブリティッシュ・カウンシルとUCLES(現Cambridge)が共同で開始。専門分野別の6モジュール構成
1989
IELTSへ改称 オーストラリアのIDPが参加して3者体制に。ジェネラル・トレーニングが導入される
1995
分野別モジュールの廃止 アカデミックのリーディングとライティングが各1種類に統一される
2001
スピーキングの改訂 試験官の発話を台本化し、現在の3パート構成と採点基準が整う
2005
ライティングの採点基準改訂 評価項目が3項目から現在の4項目になる
2007
年間100万件を突破 その後2012年に200万件、2018年に350万件、2023年には400万件を超える
2017
コンピューター版の開始 12月にオーストラリアで導入され、翌年から各国へ拡大
2023
ワンスキル・リテイクの導入 コンピューター版で1技能だけ受け直せる仕組みが各国へ順次拡大
2026
ペーパー版の提供終了 日本では東京都・大阪府が8月実施分、それ以外の会場は6月実施分で終了
02 前身は1965年のEPTB
IELTSの直接の祖先にあたるのが、EPTB(English Proficiency Test Battery)です。ブリティッシュ・カウンシルとバーミンガム大学が1963年から共同で開発し、1965年から実際に使われ始めました。開発を主導した応用言語学者アラン・デイヴィスの名前をとって、通称「デイヴィス・テスト」とも呼ばれます。
EPTBは、リスニング理解、リーディング理解、そして読む速さという3つのサブテストで構成されていました。文法と語彙をどれだけ身につけているかを構造的に測る設計で、目的は英国の大学に留学する学生の英語力を判定することでした。
今の目で見ると、明らかに欠けているものがあります。ライティングとスピーキングが含まれていないことです。これは開発側も承知のうえで、読解と聴解の測定を工夫することで全体の英語力を推定しようとしていました。裏を返すと、当時は「産出(書く・話す)を直接測る」という発想そのものが、まだ試験の標準ではなかったということです。
03 1980年、ELTSの登場
1980年、EPTBに代わる試験としてELTS(English Language Testing Service)が始まりました。運営したのは、ブリティッシュ・カウンシルとUCLES(University of Cambridge Local Examinations Syndicate、現在のCambridge University Press & Assessment)です。IELTSという名前ではありませんが、実質的にはこれが今のIELTSの初代にあたります。
ELTSの設計思想は、1970年代に広がったコミュニカティブ・ランゲージ・ティーチングと、English for Specific Purposes(特定の目的のための英語)という考え方を強く反映していました。文法知識を単独で問うのではなく、留学先で実際に出会う場面に近い課題を与えて、そこで英語を運用できるかを見ようという方向です。
その発想を徹底した結果、ELTSは受験者の専攻分野ごとに分かれた6つのモジュールを持つことになりました。生命科学、社会科学、物理科学、テクノロジー、医学という5つの分野別モジュールと、分野を限定しない一般学術用モジュールの組み合わせです。
ただし、この設計は運用の面で大きな負担になりました。受験者数も伸びず、1981年で約4,000人、1985年でも約10,000人という規模にとどまっていました。試験の理想と、世界中の会場で安定して実施できる現実との差が、次の改訂につながっていきます。
04 1989年、IELTSの誕生
1980年代半ば、ELTSを作り直すための改訂プロジェクトが立ち上がります。ここで大きかったのが、オーストラリアの大学連合の組織であるIDP(International Development Program of Australian Universities and Colleges)が参加したことです。英国のブリティッシュ・カウンシルとケンブリッジに、オーストラリアが加わって共同運営する形になりました。
そして1989年、ELTSはIELTS(International English Language Testing System)として再スタートします。名前に International が入っているのは、この国際的な共同運営体制を反映したものです。運営が3者体制になったこの枠組みは、名称や組織形態を変えながらも現在まで続いています。
1989年時点の形式は、今と完全に同じではありません。リスニングとスピーキングは分野を問わない共通の試験でしたが、リーディングとライティングは依然として専門分野別で、ELTS時代の6分野が3分野に整理されました。また、留学以外の目的に対応していた非アカデミック用の試験が、この改訂でジェネラル・トレーニング・モジュールに置き換えられています。アカデミックとジェネラルという今の二本立ては、ここから始まりました。
05 1995年・2001年・2005年の改訂
今のIELTSの姿は、1989年以降の3つの改訂でほぼ固まりました。受験者としては、この3回を押さえておけば十分です。
時期 対象 主な変更
1995年 リーディング・ライティング 分野別モジュールを廃止し、アカデミックは各1種類に。リーディングとライティングのテーマ上のつながりも解消
2001年7月 スピーキング 試験官の発話を台本化し、タスクを整理。分析的な採点基準を導入
2005年1月 ライティング 採点基準を3項目から4項目に変更
1995年:専門分野別をやめた
1995年の改訂で、アカデミックのリーディングとライティングはそれぞれ1種類に統一されました。受験者が自分の専攻に合わせてモジュールを選ぶ仕組みは、ここで終わっています。同時に、リーディングの文章とライティングの課題を同じテーマでつなぐ設計もやめました。読んだ内容がそのまま作文の材料になると、読解力を測っているのか作文力を測っているのかが混ざってしまうためです。ジェネラル・トレーニングもアカデミックと同じ枠組みに揃えられました。この年の受験者数は約43,000人、試験会場は世界210か所でした。
2001年:スピーキングが今の3パート構成に
スピーキングの改訂プロジェクトは1998年に始まり、新しいスピーキングテストは2001年7月から実施されました。ここで導入されたのが、試験官が読み上げる発話の台本(examiner frame)です。どの国のどの試験官に当たっても同じ手順で進むようにして、試験官による差が結果に響きにくくしました。採点も、全体の印象ではなく複数の観点ごとに評価する方式に変わっています。今のパート1、パート2、パート3という流れも、この改訂で整えられたものです。
2005年:ライティングの採点が4項目に
2005年1月からは、ライティングの採点基準が新しくなりました。それまでの3項目から4項目に増え、現在のTask Achievement(タスク1)/Task Response(タスク2)、Coherence and Cohesion、Lexical Resource、Grammatical Range and Accuracyという構成になっています。今わたしたちが見ているBand Descriptorsの骨格は、この時点のものです。
ここで一つ、対策上の意味があります。スピーキングは2001年、ライティングは2005年以降、採点の枠組み自体は大きく変わっていません。つまり20年以上にわたって、同じ4つの観点で評価され続けているということです。試験の傾向を追いかけるより、この4観点の中身を正確に理解するほうが、投じた時間が長く効くことになります。
06 受験者数の拡大とデジタル化
形式が安定したあと、IELTSは規模を伸ばしていきます。2007年に年間の受験件数が初めて100万件を超え、2012年に200万件、2018年に350万件、2023年には400万件を超えました。1981年に4,000人だったことを思うと、40年あまりで規模がまったく別のものになったことがわかります。
実施方法の変化も大きな転換でした。コンピューター版のIELTSは2017年12月にオーストラリアで始まり、2018年から各国へ広がりました。ここで注意したいのは、コンピューター版でもスピーキングは試験官との対面で実施される点です。1980年のELTS以来、人と話す形式で測るという方針だけは変わっていません。
2020年には、新型コロナウイルスの影響で試験会場が閉鎖される中、自宅で受験できるIELTS Indicatorが4月に導入されました。ただしこれは会場が使えない期間の代替手段という位置づけで、各国の会場が再開するにつれて提供が終了しています。その後2022年には、アカデミックを対象に遠隔監督型のIELTS Onlineが登場しました。
2023年には、コンピューター版の受験者を対象に、4技能のうち1技能だけを受け直せるワンスキル・リテイクが各国で順次導入されました。オーストラリアなどでの導入を皮切りに対象国が広がった仕組みで、1技能だけスコアが届かなかった場合の負担を減らすものです。
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07 日本でのIELTSの歩み
日本国内の実施体制も、この15年ほどで大きく変わりました。2010年、日本英語検定協会がブリティッシュ・カウンシルとの共同運営を開始し、申込受付や試験実施を引き継ぎます。それまでは受験できる機会も限られていましたが、この体制になってから国内での認知が一気に広がり、2016年には共同運営開始前のおよそ4.5倍の規模まで受験者が増えました。
2016年には、IELTSの共同所有機関の一つであるIDPも日本での試験実施を始め、JSAF(日本スタディ・アブロード・ファンデーション)を公式テストセンターに認定しました。さらに2026年2月には、IDPが日本国内の運営をそのJSAFへ移管しています。現在、日本で受験する場合の申込先は英検協会とJSAFの2つです。
試験の中身はどこで申し込んでも同じですが、会場や日程、申込の締切は運営団体によって異なります。受験を決めたら、両方のサイトを見比べて日程を選ぶとよいでしょう。
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08 2026年、ペーパー版の終了
そして今、IELTSの歴史はもう一つの節目を迎えています。2026年3月27日、IELTSパートナーは、2026年中旬以降にペーパー版の提供を終了し、すべての試験をコンピューター版で実施すると発表しました。実施の時期は市場ごとに異なるとされています。
日本国内の最終実施時期は次の通りです。
東京都・大阪府の試験会場:2026年8月実施分まで
それ以外の試験会場:2026年6月実施分まで
試験の内容、採点基準、試験時間、成績証明書はペーパー版と同一とされており、スピーキングも引き続き対面で実施されます。すでに取得したペーパー版の結果は、推奨される有効期間である2年のあいだ有効です。なお、英国ビザ申請用のSELT(Secure English Language Test)は、以前からデジタル形式のみでの提供となっています。また一部の市場では、ライティングの解答だけを手書きで行えるオプションの導入も案内されています。
1980年にELTSが紙の試験として始まってから、46年でその形が終わることになります。これから対策を始める方は、最初からコンピューター版を前提に準備を進めておくと無駄がありません。画面上で長文を読む、キーボードでエッセイを書くという条件は、対策の手順そのものに影響します。
09 よくある質問
IELTSはいつから始まった試験ですか。
IELTSという名称になったのは1989年です。その前身は1980年に始まったELTS(English Language Testing Service)で、さらにその前には1965年から使われていたEPTBという試験がありました。1989年を起点にすると、2024年で35周年を迎えたことになります。
昔のIELTSは専門分野ごとに試験が分かれていたというのは本当ですか。
本当です。1980年のELTSは生命科学、社会科学、物理科学、テクノロジー、医学という5つの分野別モジュールと一般学術用モジュールで構成されていました。1989年のIELTSへの改称時に3分野へ整理され、1995年の改訂で分野別モジュールは廃止されています。
なぜスピーキングだけ試験官との対面なのですか。
1980年のELTS以来、実際の場面で英語を運用できるかを測るという設計思想が受け継がれているためです。2001年の改訂では試験官の発話を台本化して手順をそろえ、対面形式のまま公平性を高める方向で調整されました。コンピューター版でもスピーキングは対面で実施されます。
採点基準は頻繁に変わるのですか。
頻繁には変わっていません。スピーキングは2001年、ライティングは2005年に採点基準が整えられて以降、枠組み自体は大きく変わっていません。試験の細かな傾向を追うより、この4観点の中身を理解するほうが対策としては長く効きます。
ペーパー版はいつまで受けられますか。
日本国内では、東京都・大阪府の会場が2026年8月実施分まで、それ以外の会場は2026年6月実施分までです。それ以降はコンピューター版のみとなります。すでに取得したペーパー版の結果は、推奨される有効期間である2年のあいだ有効です。
IELTSはどこが運営しているのですか。
British Council、IDP Education、Cambridge University Press & Assessment の3団体が共同で運営しています。この3者体制は1989年にIDPが参加したときに始まったものです。日本国内での申込先は、日本英語検定協会とJSAFの2つです。
10 まとめ
IELTSの歴史をたどると、「実際に使う場面で英語を運用できるか」を測ろうとする方向に、一貫して動いてきたことがわかります。読解と聴解だけだったEPTBから、産出を含む4技能へ。専門分野別という理想から、運用可能な共通形式へ。そして紙からコンピューターへ。試験形式の一つひとつには、それが選ばれた理由があります。
1965年のEPTBが直接の前身。リスニングとリーディングのみを測定していた
1980年のELTSで、専門分野別・4技能という設計が導入された
1989年、IDPの参加を機にIELTSへ改称。3者による共同運営が始まった
1995年に分野別モジュールを廃止し、アカデミックの形式が現在の姿になった
スピーキングは2001年、ライティングは2005年に採点基準が整い、以後の枠組みは大きく変わっていない
2026年、日本では8月(東京都・大阪府)と6月(それ以外)を最後にペーパー版が終了する
試験の成り立ちを知っておくと、対策の優先順位も判断しやすくなります。特に、スピーキングとライティングの採点の枠組みが20年以上変わっていないという点は、対策に時間を投じるうえで心強い事実です。まずは4つの観点の中身を正確につかむところから始めるとよいでしょう。